新体操選手の食事練習できる身体をつくる基本的な考え方
新体操では、細さや見た目が注目されることがあります。しかし、練習し、跳び、回り、手具を操り、集中し、翌日も回復するにはエネルギーが必要です。食事の目的は体重を小さくすることではなく、身体を動かし、成長させ、怪我から守ることです。
結論|新体操選手の食事は、「軽くする」より「練習に足りているか」で考えます
新体操選手の食事で最も大切なのは、練習量と成長に見合うエネルギーを確保し、炭水化物・たんぱく質・脂質を極端に削らず、食事と補食を一日の中へ分けて摂ることです。
利用可能エネルギー不足とは、食事から摂ったエネルギーが運動で使う量に対して少なく、成長、月経、骨、免疫、回復などへ回すエネルギーが足りない状態です。長期化・重症化すると、健康とパフォーマンスの両方が損なわれるRED-Sにつながる可能性があります。
新体操選手を対象とした研究では、特に思春期選手で利用可能エネルギー不足のリスク、炭水化物・カルシウム・ビタミンD等の摂取不足が報告されています。2025年に公表された若年のアマチュア新体操選手の研究でも、推定消費量に対するエネルギー摂取不足と、果物・野菜・豆類・良質な脂質等の不足が示されました。
食事は、練習の燃料だけではありません
成長期の選手は、競技のためだけでなく、身体を育てるためにもエネルギーと栄養素を必要とします。
ジャンプ、ピボット、手具、集中のエネルギー
筋肉とエネルギー貯蔵を次の練習へ戻す
身長、骨、筋肉、血液、ホルモンをつくる
免疫、月経、怪我予防、心の安定を支える
新体操選手の食事|8つの基本
特別な食品より、毎日の不足を減らすことから始めます。
総エネルギーを不足させない
主食や間食を減らす前に、練習量、成長、疲労、月経、怪我を確認します。意図しない食べ不足もあります。
炭水化物を練習の燃料にする
ご飯、パン、麺、芋、果物等は、筋肉と脳が使う大切なエネルギー源です。練習量に合わせて主食と補食を配置します。
たんぱく質を一日へ分ける
肉、魚、卵、乳製品、大豆製品等を朝・昼・夕食へ分けます。練習後も炭水化物と組み合わせます。
脂質を極端に減らさない
脂質はエネルギー、細胞、ホルモン、ビタミン吸収に必要です。魚、ナッツ、種子、植物油等も活用します。
食べない時間を長くしない
学校から練習終了まで長時間空く場合は補食を準備します。朝食を抜いたまま練習へ行かないようにします。
鉄・カルシウム・ビタミンDを意識する
成長期と女性選手では不足に注意します。赤身肉、魚、卵、大豆、乳製品、小魚、青菜等を食事へ組み込みます。
水分を練習前から摂る
喉が渇いてから一度に飲むのではなく、練習前・中・後に分けます。暑さ、発汗、練習時間へ合わせます。
体重より体調と機能を記録する
集中、疲労、回復、怪我、睡眠、月経、気分、練習の質を確認します。体重だけで食事の良し悪しを判断しません。
一日の食事は、「主食・主菜・副菜・乳製品・果物」を目安に組み立てる
毎食すべてが完璧でなくても、一日と一週間の中でそろえます。
主食
ご飯、パン、麺、芋等。練習と脳の主要な燃料。
主菜
肉、魚、卵、大豆製品。筋肉、血液、回復の材料。
副菜
野菜、海藻、きのこ。ビタミン、ミネラル、食物繊維。
乳製品等
牛乳、ヨーグルト、チーズ等。カルシウムとたんぱく質。
果物
炭水化物、水分、ビタミン。補食にも使いやすい。
練習前後は、時間に合わせて食べ方を変える
食事までの空き時間を減らし、胃腸へ負担の少ない食べ慣れたものを選びます。
練習前
数時間前なら、主食・主菜・副菜を含む通常の食事を摂ります。直前に近い場合は、脂質や食物繊維が多すぎない、消化しやすい炭水化物中心の補食へ調整します。
練習中
水分を少量ずつ継続します。長時間練習、暑い環境、大量発汗、食事間隔が長い場合は、糖質と電解質を含む飲料や補食を検討します。
練習後
夕食まで時間が空くなら、炭水化物とたんぱく質を含む補食を摂ります。プロテインだけではなく、使ったエネルギーを戻す主食や果物を組み合わせます。
水分補給は、体重を減らすために我慢しない
水分を控えて一時的に体重を軽くしても、身体の機能が良くなるわけではありません。脱水は集中、判断、体温調節、運動能力へ影響します。
練習前から確認する
- 朝から水分を摂れているか
- 尿の色が極端に濃くないか
- 頭痛、だるさ、口の渇きがないか
- 水筒を自由に使える環境か
練習中・後に調整する
- 短い間隔で飲水休憩を設ける
- 高温多湿では電解質も検討する
- 大量発汗後は食事と水分を戻す
- 個人の発汗量と胃腸を考慮する
食べ不足は、体重だけでは分かりません
利用可能エネルギーとは、食事で摂ったエネルギーから運動で使ったエネルギーを差し引いた後に、成長、体温、ホルモン、骨、免疫、回復等へ使えるエネルギーです。
IOCの2023年RED-S合意声明では、長期的または重度の利用可能エネルギー不足により、代謝、生殖機能、筋骨格、免疫、グリコーゲン合成、心血管・血液、心理面等へ影響し、健康と競技パフォーマンスが損なわれる可能性が示されています。
| 領域 | 起こり得る変化 | 練習で見えるサイン | 対応 |
|---|---|---|---|
| エネルギー・回復 | 慢性疲労、回復遅延、代謝変化 | 後半に動けない、翌日も疲れる | 食事量・補食・練習量を見直す |
| 月経・ホルモン | 初経遅延、月経不順、無月経 | 周期が乱れる、3か月以上来ない | 婦人科等へ相談し、食事と負荷を評価 |
| 骨 | 骨密度低下、骨ストレス障害 | 疲労骨折、同じ場所の痛み | 練習中止・医療評価・栄養支援 |
| 筋力・技術 | 筋適応・グリコーゲン回復の低下 | 跳べない、持続しない、ミス増加 | 炭水化物と総エネルギーを確認 |
| 免疫・血液 | 体調不良の反復、鉄欠乏等 | 風邪が多い、息切れ、めまい | 医療機関で検査を検討 |
| 心理・食行動 | 気分変化、食への恐怖、執着 | 食事を避ける、隠す、強い自己否定 | 医療・栄養・心理の専門チームへ |
早めに立ち止まりたいサイン
一つだけで原因を断定はできませんが、複数が続く場合は「努力不足」とせず、食事・練習量・医療面を確認します。
選手・保護者・指導者、それぞれができること
食事を選手本人だけの自己管理にせず、環境として支えます。
選手
食べた内容だけでなく、疲労、回復、睡眠、月経、痛み、気分を記録します。食べることへの恐怖や困りごとを一人で隠しません。
保護者
学校・移動・練習時間に合わせて補食を準備し、体重や見た目を責めず、体調変化を医療・栄養の専門家へつなぎます。
指導者
公開計量や食事罰を行わず、飲水・補食の時間を確保します。診断や減量処方をせず、医師・管理栄養士等と連携します。
サプリメントより、まず食事と生活を整える
スポーツ栄養の合意文書では、基本は食品から必要な栄養を確保する「フードファースト」が重視されています。成長期の選手がサプリメントへ頼りすぎると、食事不足が見えなくなることがあります。
自己判断で始めないもの
- 鉄、ビタミンD等の高用量サプリ
- 減量、脂肪燃焼をうたう製品
- エネルギーを極端に抑える置換食品
- 成分や製造管理が不明な海外製品
専門家へ確認すること
- 血液検査や症状から本当に必要か
- 年齢、薬、病気との相互作用
- 過剰摂取や副作用のリスク
- 競技規則と汚染・ドーピングリスク
新体操選手の食事でよくある6つの思い込み
月経・摂食障害・心身の変化を知る関連ガイド
以下はバレエ向けのページですが、審美系競技に共通する健康課題として、新体操の選手・保護者・指導者にも参考になります。
ジュニアと指導者のための婦人科ガイド
初経の遅れ、月経不順、無月経、利用可能エネルギー不足、骨密度低下、受診を考えたいサインを整理しています。
婦人科ガイドを見る摂食障害の理解を深めよう
極端な食事制限、体型への執着、過食や嘔吐等のサインと、本人・家族・周囲が早期の相談と治療へつなぐ考え方を紹介しています。
摂食障害ガイドを見るからだとこころのセルフチェックガイド
疲労、痛み、月経、気持ちの変化へ本人が気づき、保護者や指導者へ伝えるための入口です。
セルフチェックを見る日本スポーツ協会|女性スポーツ
女性アスリートのための月経セルフチェックシートや、女性を指導する際の医・科学的知見をまとめた資料が案内されています。
女性スポーツの資料を見る新体操安全コーチ資格
栄養学、摂食障害、心理、解剖学、整形外科学、トレーニング等を専門家から学び、体重や見た目だけに頼らないコンディショニングと専門家連携を身につけます。
資格・カリキュラムを見る食事を増やすだけで解決しようとせず、専門家へつなぎたい状況
- 3か月以上月経がない、15歳で初経がない
- 疲労骨折、骨の痛み、怪我を繰り返す
- めまい、失神、息切れ、強い疲労がある
- 短期間で体重や成長が大きく変化した
- 食べることへの強い恐怖、極端な制限がある
- 過食、嘔吐、下剤使用、隠れて食べる等がある
- 体型への強い執着、抑うつ、自傷がある
- 家族や指導者だけでは安全を保てない
体調と月経は医師へ、食事計画は管理栄養士・公認スポーツ栄養士へ、食行動と心理の問題は摂食障害を扱う医療機関・心理職を含む専門チームへ相談します。
細くする指導から、踊れる身体を支える指導へ
栄養、月経、骨、心理、練習負荷を一緒に考えるために。
新体操安全コーチ資格では、身体の安全、心の安全、未来の安全を軸に、栄養学、摂食障害、心理、解剖学、整形外科学、トレーニング理論等を専門家から学びます。
指導者が独自に減量や食事制限を命じるのではなく、エネルギー不足のサインへ気づき、選手と保護者へ説明し、医師・管理栄養士・心理職等へつなげる力を育てます。
新体操選手の食事について、よくある質問
体重、炭水化物、たんぱく質、補食、月経、水分、サプリメントについて回答します。
Q1. 新体操選手は、体重を増やさないために食事を減らすべきですか?
食事を減らすことを基本方針にしてはいけません。練習量に対してエネルギーが不足すると、集中力、回復、筋力、月経、骨、免疫、成長に影響し、怪我やパフォーマンス低下につながる可能性があります。体重や体組成を調整する必要がある場合は、医師や公認スポーツ栄養士等の管理下で行います。
Q2. 新体操の練習前は、何を食べればよいですか?
練習までの時間と消化のしやすさに合わせ、主に炭水化物を含む食事や補食を選びます。数時間前ならご飯・パン・麺等を含む食事、直前に近い場合はおにぎり、バナナ、パン、ヨーグルト等の食べ慣れたものが候補です。個人の体調やアレルギーに合わせて調整します。
Q3. 練習後は、プロテインだけでよいですか?
プロテインだけでは、練習で使ったエネルギーや筋グリコーゲンの回復に必要な炭水化物が不足する場合があります。食事まで時間が空くなら、牛乳・ヨーグルト・卵・大豆製品等のたんぱく質と、おにぎり・パン・果物等の炭水化物を組み合わせます。
Q4. 炭水化物は太るので控えた方がよいですか?
炭水化物は筋肉と脳が練習で使う重要なエネルギー源です。必要量は練習量や時期で変わりますが、一律に抜くと疲労、集中力低下、回復不足につながる可能性があります。主食を敵にせず、練習量に合わせて調整します。
Q5. 新体操選手にたんぱく質はどのくらい必要ですか?
必要量は年齢、体格、成長、練習量、食事全体によって異なるため、個別の数値は専門家と決めます。基本は一度に大量摂取するのではなく、肉、魚、卵、乳製品、大豆製品等を朝・昼・夕食と補食へ分けて摂ることです。
Q6. 脂質はできるだけ減らした方がよいですか?
脂質はエネルギー、細胞膜、ホルモン、脂溶性ビタミンの吸収等に必要です。極端に減らすのではなく、魚、ナッツ、種子、植物油等も含め、食事全体の中で摂ります。揚げ物等が練習直前に重い場合は、時間帯を調整します。
Q7. 月経が止まっても、競技をしているなら普通ですか?
普通として放置してはいけません。月経不順や無月経は、利用可能エネルギー不足や他の病気のサインである可能性があります。3か月以上月経が来ない、15歳になっても初経がない、月経トラブルが競技や生活に影響する場合は婦人科へ相談してください。
Q8. 鉄やカルシウムのサプリメントを飲んだ方がよいですか?
自己判断での常用は避けます。鉄欠乏やビタミンD不足等は検査と医療的判断が必要です。基本は食事から摂り、症状や検査結果に基づいて医師・管理栄養士等が必要性、種類、量を判断します。サプリメントには過剰摂取や汚染のリスクもあります。
Q9. 練習中は水だけでよいですか?
短時間で涼しい環境なら水で足りる場合がありますが、長時間、高温多湿、大量に汗をかく、食事間隔が長い場合は糖質や電解質を含む飲料が役立つことがあります。発汗量、練習時間、環境、体調に合わせて個別に考えます。
Q10. 食事や体型の問題は、どこへ相談すればよいですか?
成長や月経、怪我、体調変化がある場合は医師へ、食事設計は管理栄養士・公認スポーツ栄養士へ相談します。食べることへの強い恐怖、過食、嘔吐、極端な制限、体型への強い執着がある場合は、摂食障害を扱う医療機関や心理職を含むチームへ早めにつなぎます。
参考にした研究・公式情報
- 2023 International Olympic Committee’s consensus statement on Relative Energy Deficiency in Sport(RED-S)
- IOC RED-S Consensus Statement|British Journal of Sports Medicine
- Body Composition, Dietary Intake and the Risk of Low Energy Availability in Elite-Level Competitive Rhythmic Gymnasts
- Dietary habits and body composition in amateur rhythmic gymnastics
- Sports Dietitians Australia position statement: sports nutrition for the adolescent athlete
- International Association of Athletics Federations Consensus Statement 2019: Nutrition for Athletics
- 日本スポーツ協会「女性スポーツに関する取り組み」
- ジュニアと指導者のための婦人科ガイド
- 摂食障害の理解を深めよう
※本記事は一般的な教育・安全情報です。必要な食事量や栄養素は、年齢、成長、体格、練習量、体調、病気、アレルギー等によって異なります。未成年選手の減量、月経異常、怪我、体調不良、摂食の問題については、医師・管理栄養士・公認スポーツ栄養士等へご相談ください。
強い身体は、食べないことでつくられません
練習前にエネルギーがあること。練習後に回復できること。月経と骨の健康が守られること。怪我を繰り返さないこと。そして、食べることを怖がらずに競技を続けられること。それが、練習できる身体の土台です。