安心できる逃げ場をつくる安藤 紗由莉先生|SEED新体操教室
「昔は当たり前だった」「このくらいなら大丈夫」。その感覚のずれが、知らないうちに誰かを追い詰めることがある。耐えることを前提にせず、声を上げられ、離れることもできる環境をつくる。「ハラスメント」を学んだ安藤先生の気づきをご紹介します。
みなさま、こんにちは! 新体操安全コーチ資格事務局です。
このコラムでは、今年からスタートした「新体操安全コーチ資格」を受講してくださった先生方からの、各講義のご感想や現場での気づきをシリーズでお届けしてまいります。
今回も、SEED新体操教室にて子どもたちの指導にあたられている安藤紗由莉先生のご感想をご紹介いたします。
本資格でどのような実践的な知識を学ぶことができるのか。現在受講を迷われている方も、ぜひ安藤先生のリアルな声をご参考になさってみてください。
指導者と生徒の間に生まれやすい力関係、ハラスメントの構造、周囲の同調圧力、言葉にならないSOS、そして安全な環境をつくるために指導者が持つべき視点を考える講義です。安藤先生には、受講後に感じたこと、これまでの振り返り、現場への活かし方、受講前後の変化、生徒へ伝えたいことの5つの視点からお答えいただきました。
安藤紗由莉先生が学んだ「ハラスメント」
スポーツや芸術の指導現場では、技術を教える側と教わる側の間に、どうしても力の差が生まれます。指導者に悪意がなくても、「自分もされてきたから」「これくらいは必要だから」という感覚が、子どもにとって大きな負担になることがあります。
安藤先生が今回の講義を通して見つめ直したのは、ハラスメントを「やらないように気をつける」だけでは足りず、その構造を知り、子どもが声を上げられる環境そのものをつくる必要があるということでした。
だからこそ、周りの大人が「逃げ道」をつくる必要がある。安藤紗由莉先生|受講後のご感想より
- お名前
- 安藤 紗由莉
- 所属
- SEED新体操教室
- 活動
- 子どもたちへの新体操指導
- 今回の講義
- ハラスメント
講義を受けて見えてきた、5つの変化
講義を受けて感じたこと
いろんなハラスメントが世間で叫ばれるようになり、どのコミュニティでも上にいる立場の人はそれに当てはまらないように気を付けて接しているというのが現状だと思われます。しかし、自分がされてきたことや今までの指導経験から「このくらいは大丈夫だろう」というセーフラインの認識のずれがあったり、そもそもこれがハラスメントになっているのだと気づいていない場合があります。気にしているだけでは知らず知らずその境界に踏み込んでしまうため、指導者や上司などを対象にハラスメント講習は必要だと実感しました。
またそれだけでなく、ハラスメントされる可能性がある子どもの段階で、感覚が麻痺してしまわないように今の自分の環境を見つめ直すためにも、学校の授業で全員に知らしめる場があれば良いと思いました。
自分のこれまでを振り返って気がついたこと
私が現役だった20年程前は、ハラスメントという言葉は浸透しておらず、スパルタ指導は先生からの愛情だと思っておりました。確かに耐え難いくらいの厳しさはありましたが、クラブチームは県外にも名を馳せる強豪でしたし、上級生の存在が何よりも憧れだったので、それに食らいついていく姿がある限り、私もその後ろを進んでいきたいという気持ちでした。
ただ一度、太るからという理由で真夏に水が飲めない練習が続いた時は、私の父親が抗議をしてくれた経験があります。絶対的な指導者に物申すということで、他の生徒や保護者の方がざわついており、私が軟弱者だというような目があった気がしましたが、現在の指針だとあり得ない指導であったのは明白であるため、悪習を止めさせるために必要な声を上げてくれた父に大変感謝しています。
ハラスメントは指導者と生徒だけの中で完結しているものではなく、圧力によって時には親や周囲も助長してしまうので、このように誰も意見が言えない中で指導者に立ち向かうことは、簡単ではない雰囲気があったのだろうと今回の講義で気付くことができました。
ハラスメントは、個人の言動だけではなく、周囲が声を上げにくくなる空気や力関係の中でも生まれます。「誰かが止めてくれるはず」ではなく、異議を言えること、離れられること、相談できることを環境として用意する視点が重要になります。
現場でどのように活かせそうか
ハラスメントといっても一概に受けた側は同じ反応ではなく、人それぞれの症状があり、その実際の環境では耐えられていても別の環境に居る時に表れることがあります。私自身の指導で起こさないことはもちろんのこと、生徒とコミュニケーションを取って、感情表現に異変がないか注視していきたいです。
子どもは今いる環境を簡単には抜け出せないので、周りの大人が逃げ道を作ってあげることが必要だと思いました。言葉に出せる辛さならSOSをすぐに見つけられますが、過剰適応に陥っていたり解離していたりするとなかなか気付くことができず、当たり障りのない表面的なコミュニケーションでは見逃してしまいます。
耐性がある子ほど大人の様子を窺って繕ってしまい、感情が表に出せないようになるので、言葉以外でのSOSを察知できるようになりたいと思います。
受講前と受講後で変わったこと
前述した通り、私自身はハラスメントが罷り通る時代に10代を過ごしたので、その線引きが甘いところがあると自認しています。反面教師で気を付ける意識はありますが、ハラスメントの構造やその内容を深く知らなかったので、何がそれに当てはまるか具体的な言動を知る機会となり、はっとさせられました。
体罰をしてはならないというのは今や一般的ですが、精神的な攻撃も心に深く残るという話があり、自分もやってしまっていないか、生徒に対する態度を振り返りました。
普段のレッスンではそのようなことはありませんが、ふざけ続ける生徒や集中できない生徒に対して、言葉で詰めることも非言語的に示すこともあったように感じます。指導の仕方が分からずに、指示を聞いてもらう手段の一つとしてやってしまいかねないので、子どもが自然と話を聞いて集中できる教え方を代わりに覚えるべきだと思いました。
新体操を通して、運動を楽しむことを大切にしたい。安藤紗由莉先生|受講後のご感想より
生徒に伝えたいと思ったこと
自分が辛いと感じることがあるなら、そこから離れることもできることを知ってもらいたいです。子供にとっては今いるコミュニティが世界の全てになってしまうので、そこに居続けることしかできないように思えるかもしれませんが、感情を塞ぎ込んでまで耐える必要はなく、心身共に適した場所が周りには沢山あって、それを自分の意思で選択できることを忘れないでほしいです。
特に、私の指導する教室では期待に応えることが指導者の望みではなく、新体操を通して運動を楽しむことが本望であると、指導者、生徒、保護者で共通認識を持っていくことが大切だと思います。
また、たとえストレスがある状況に置かれていたとしても、新体操の教室が皆の逃げ場になるような安心できる場所を提供していきたいです。
「耐えるしかない」を、子どもの選択肢にしない
安藤先生、今回もご自身の原体験に基づく、大変深く貴重なご感想をありがとうございます。
過酷な環境下で、お父様が周囲の同調圧力に屈せず「水分制限」に対して声を上げてくださったエピソードは、スポーツ現場がいかに閉鎖的になりやすく、問題のある指導が潜在化しやすいかを考える上で、大切な示唆を与えてくれます。
そのご経験があるからこそ、子どもたちの「過剰適応」や言葉にならないSOSを見逃さず、大人が逃げ道をつくることの重要性に目を向けられたのだと感じます。
また、ご自身の指導を振り返り、集中できない生徒へ言葉や態度で圧をかけるのではなく、自然と話を聞ける教え方を身につける方向へ指導を更新しようとされている点にも、大きな意味があります。
ハラスメントをなくすために必要なのは、「悪いことをしない」という個人の注意だけではありません。子どもが違和感を言葉にできること。保護者が意見を伝えられること。必要であればその場から離れられること。そして、指導者自身が自分の指導を振り返り続けること。
新体操の教室が、子どもにとって安心して戻ってこられる場所であること。心理的安全性が守られた新しい指導のスタンダードを、これからも共に築いていきましょう。
次回のコラムでも、受講生の皆様のリアルな声と、学びを通じた指導現場のアップデートをお届けしてまいります。「新体操安全コーチ資格」に興味をお持ちの先生方、今後のコラムもぜひご期待ください。
安全な指導は、「技術」だけではつくれない
新体操安全コーチ資格では、身体・心・栄養・ハラスメント・言葉がけなど、指導現場で迷いやすいテーマを専門家から体系的に学びます。今の指導を見直したい方、これから指導者を目指す方もオンラインで受講できます。