相談できる場所を、知っていますか?スポーツ庁の暴力・ハラスメント防止から考える、新体操教室の安全な指導
柔軟性を高める練習、手具の操作、演技の完成度、大会に向けた選抜や強化。新体操は、技術と表現を育てる一方で、指導者の判断が選手の身体と心に大きく関わる競技です。競技力を高めることと、子どもが安心して「嫌だ」「痛い」「困った」と言える環境を守ることは、両立させるべきものです。
新体操教室にも、相談できる仕組みが必要です。
スポーツ庁は、スポーツにおける暴力・ハラスメントをなくすため、教育・研修や相談窓口の案内を進めています。競技団体に登録した選手だけでなく、地域の新体操教室で学ぶ子どもや保護者も、困ったときに頼れる情報を知っておくことが大切です。
ただし、国やスポーツ団体が案内する窓口の利用条件はそれぞれ異なります。相談窓口の一覧が公表されたことによって、すべての民間教室に新たな設置義務が生じたわけではありません。
問題が起きる前から、相談先を知らせておく。
この記事では、国・競技団体が実際に行っている取り組みと、新体操安全コーチ資格が教室向けに提案する実践を分けて紹介します。
国は、スポーツの現場で何をなくそうとしているのでしょうか。
スポーツ庁は「スポーツにおける暴力・ハラスメント等の根絶に向けた取組」において、競技団体等と連携し、指導者やアスリートへの教育・研修、相談窓口の整備、学校の運動部活動における安全確保などを進めると説明しています。
殴る、たたく、怒鳴り続ける、人格を否定する、性的な嫌がらせをする。こうした行為が競技の楽しさや心身の健全な成長を妨げることは、競技種目によって変わりません。
なお、スポーツ庁のこのページはスポーツ分野に向けた政策・相談先案内です。民間の新体操教室の全ての指導法を一律に規制する文書ではありません。
相談先を知らせる取り組みは、今も更新されています。
2026年10月16日までに公表・確認できた主な情報を整理します。
スポーツ庁の相談窓口一覧
スポーツ庁は、競技団体や公的機関の相談先をまとめた23ページの資料を掲載しています。どの窓口が、誰の、どのような相談を扱うかを確認する手がかりになります。
法務省のこどもの人権相談
全国一斉の強化週間には、電話やLINEでの相談受付を拡大しました。強化週間は終了していますが、通常の相談制度は引き続き案内されています。
利用条件を確認して案内する
一覧の掲載と、受付・調査・処分の対象範囲は同じではありません。利用前には各機関の公式サイトで最新の条件や受付方法を確認します。
民間の新体操教室には、どこまで関係するのでしょうか。
国が公表していること
スポーツ庁はスポーツ現場の暴力・ハラスメント対策を推進し、関係団体の相談窓口を紹介しています。団体ごとに受付条件が違います。
法律上の責任
民間教室も、暴行・性犯罪・児童虐待や個人情報の問題と無関係ではありません。実際の行為や事業形態に応じて、適用される法律や責任を個別に確認する必要があります。
教室で自主的に整えること
新体操安全コーチ資格では、身体接触、体型への声かけ、相談方法、写真・動画の扱い、遠征、記録の保管などのルールを、教室規模に合わせて整えることを提案します。
日本体操協会にも、相談と予防のための仕組みがあります。
新体操を含む競技現場で学べる、より身近な情報です。
選手向けのハラスメント相談窓口
日本体操協会は、協会に登録する選手がパワーハラスメントやセクシュアルハラスメントに遭った場合の相談窓口を案内しています。協会登録選手を対象とした説明であり、すべての未登録の教室生に同じ制度が使えるとは限りません。
日本体操協会の窓口案内を見る →研修動画や暴力防止・盗撮防止資料
日本体操協会は、インティグリティ教育・コンプライアンス研修動画の案内や、暴力・暴言、盗撮の防止に関する啓発資料を公開しています。動画の視聴方法には案内・申請手順があります。
日本体操協会の研修・啓発資料を見る →「どこで起きたか」「誰が困っているか」で相談先は変わります。
協会への登録がある選手
日本体操協会や関係する競技団体の対象条件を確認します。相談の受付と調査・処分は同じではありません。
幅広いスポーツ現場の相談
日本スポーツ協会の「暴力行為等相談窓口」は、スポーツ現場での不適切行為について幅広く相談を受け付けると案内しています。ただし、具体的な処分の権限や対象には制度上の条件があります。
特定のトップアスリート
日本スポーツ振興センターの第三者相談・調査制度は、制度上の対象となるトップアスリート本人や関係者向けです。一般の選手すべてが対象ではありません。
学校や独立した民間教室
学校なら学校・教育委員会等の経路を、民間教室なら相談内容に応じて競技団体、公的な子ども・人権相談、児童相談所、警察なども検討します。
困ったときに知っておきたい、公的な相談の入口。
受付時間や対象条件は変わることがあります。実際の利用時は各公式ページでご確認ください。
こどもの人権110番
0120-007-110いじめ、暴言、虐待など子どもの人権に関する相談先。通常の電話受付は平日8:30〜17:15。LINEやSOSミニレターも案内されています。
公式案内を見る →スポーツ団体の相談制度
日本体操協会の選手向け窓口、日本スポーツ協会の相談窓口など。対象行為、登録状況、調査・処分の範囲を確認しましょう。
日本体操協会 → / 日本スポーツ協会 →安全確保を最優先に
警察 110 / 救急 119差し迫った危険、暴行、緊急のけががある場合は、安全な場所へ移動し、必要に応じて警察・救急へ連絡します。通常の相談窓口の回答を待たないでください。
新体操のレッスンや大会では、どんな場面に注意したいでしょうか。
ここからは国が定めた個別の違反行為一覧ではなく、新体操の指導場面を想定した教育上の実践例です。
柔軟性や可動域を高める補助
開脚・反り・肩の柔軟性などで身体を押す前に、目的や方法を説明し、本人の反応を確かめます。痛みや恐怖を訴えているのに強制したり、「我慢できないなら選手になれない」と脅したりしないことが大切です。
手具の失敗と厳しい叱責
リボン、フープ、ボール、クラブ、ロープの落下や操作ミスは練習の一部です。手具を投げつける、見せしめにする、人格を否定するような言葉で追い込む行為を避け、改善できる動作に着目して伝えます。
体重・体型・衣装への言葉
演技の美しさや衣装の着用を理由に、体重や見た目を人前で評価したり、食事制限を迫ったりしないよう配慮します。成長期の身体や健康に懸念がある場合は、医療・栄養の専門家へつなぎます。
団体演技の選抜と個人演技の評価
大会メンバー、立ち位置、演技構成、級やクラスの変更には指導者の裁量が伴います。相談した子を選抜から外すなどの報復を防ぎ、評価理由を説明できる仕組みを考えます。
個人練習・合宿・遠征・送迎
密室での一対一の指導、宿泊時の部屋割り、移動車両、夜間の連絡などは第三者が見えにくい場面です。付き添い、入退室、送迎、連絡手段、緊急時の対応を明文化します。
演技動画・更衣・SNS
練習や大会の撮影でも、着替えの場所、身体の一部を強調する撮り方、失敗場面の投稿などに配慮します。本人・保護者への説明、撮影範囲、公開範囲、保存・削除のルールを設けます。
保護者同士・選手同士の関係
団体演技での責任の押し付け、仲間外れ、SNSグループでの叱責など、指導者以外による不適切な言動も見逃さないようにします。選手と保護者の双方に相談経路を伝えます。
先生自身が相談対象になったとき
少人数のクラブでは指導者が責任者も兼ねることがあります。本人に直接苦情を言いにくい状況を想定し、外部の公的窓口や競技団体の情報を普段から共有します。
子どもが話してくれたとき、最初に大切にしたい六つのこと。
先生一人で事実認定や問題の解決を抱え込む必要はありません。
その場に危険がないか、けがや強い不安がないかを確認し、安全確保を優先します。
「話してくれてありがとう」と伝え、責めず、無理に詳細を聞き出しません。
必要に応じて子どもを守るために関係機関へ情報を共有することがあると、分かりやすく伝えます。
日時・場所・話された言葉を簡潔に記録し、推測やうわさを混ぜません。
選抜、出場、クラス、指導機会などで報復が起きないようにし、必要に応じ接触を避けます。
児童相談所、人権相談、警察、医療・法律の専門家など、状況に応じた窓口を検討します。
「話してよかった」と思えるように、情報を守ります。
行いたいこと
- 相談内容を知る担当者を必要最小限にする
- 誰に、何のために情報を共有するか説明する
- 記録の保存先・アクセス権・保管期間を決める
- 本人と家庭の安全を確認する
- 出場やレッスンでの報復を防ぐ
避けたいこと
- 相談内容をチーム内や保護者会で広める
- 事実確認前にSNSへ掲載する
- 同じ話を何度も繰り返し求める
- 本人の意思を無視して和解を急ぐ
- 家庭の安全を確認せず一律に保護者へ連絡する
指導者が一人の新体操教室は、何から始めればよいでしょうか。
相談できる新体操教室のための12項目。
国の認定基準ではなく、教室独自の安全方針を考えるための確認リストです。
- 暴力・暴言・ハラスメントを認めない方針がある
- 子どもと保護者に、その方針を伝えている
- 柔軟性指導や身体接触の目的と方法を説明する
- 体型・体重・食事に関する声かけに配慮する
- 「痛い」「怖い」「嫌だ」を言える環境がある
- 相談による出場・選抜・評価上の不利益を防ぐ
- 指導責任者以外への相談経路がある
- 子どもと保護者に公的相談窓口を案内している
- 相談時の安全確認・記録・外部連携を決めている
- 相談情報の保管・アクセス制限を定めている
- 個人練習・遠征・更衣・撮影・SNSにルールがある
- 指導者が継続して安全・倫理を学ぶ機会がある
新体操教室の相談と、安全な指導について。
スポーツ庁の相談窓口なら、すべての新体操教室の相談を受け付けますか?
いいえ。掲載されている窓口には、団体登録や対象行為などの条件があるものもあります。一方、子どもや人権に関する公的相談など、より幅広い相談の入口もあります。窓口ごとの対象範囲を確認してください。
日本体操協会のハラスメント窓口は、未登録の生徒も利用できますか?
協会の公式案内では、協会に登録する選手がパワハラ・セクハラに遭った場合の窓口として説明されています。未登録の場合は利用条件を協会に確認し、対象外であれば日本スポーツ協会や公的な相談先なども検討します。
日本スポーツ協会には、登録していなくても相談できますか?
日本スポーツ協会は、スポーツ現場での不適切行為について、困っている人が無料で相談できると案内しています。ただし、その後の調査・処分が可能かどうかは別の制度上の判断となります。
スポーツ庁の相談窓口一覧は、民間教室への新しい法律上の義務ですか?
この一覧自体は、すべての民間新体操教室に資格取得や一律の窓口設置を義務づけるものではありません。ただし、暴行、性犯罪、虐待、個人情報などに関する一般法令は、状況に応じて適用されます。
柔軟性指導で身体に触れることは、すべて禁止ですか?
いいえ。身体接触の必要性と安全性は、目的、方法、本人の状態、同意、痛みの有無などを踏まえて判断します。新体操安全コーチ資格では、事前説明と意思確認、強制しない指導、代替方法の準備を勧めています。
大会メンバーから外されたことも、相談できますか?
選抜の判断そのものと、報復や人格否定などの不適切行為は区別が必要です。相談したことを理由に不利益が生じた可能性がある場合は、事実を記録し、教室外の相談先や関係団体に確認できます。
子どもから相談されたとき、保護者にすぐ全て伝えるべきですか?
子どもの安全、本人の意思、家庭の状況や法令上の必要性を踏まえて考えます。家庭内で虐待が疑われるなど、連絡が危険につながり得る場合は、まず児童相談所などの専門機関に相談してください。
新体操安全コーチ資格を受講すれば、公的な相談窓口を運営できますか?
いいえ。この資格の学びは、安全な指導と教室での適切な判断を支える教育であり、国の相談・調査・処分制度を代行したり、公的な認定や権限を与えたりするものではありません。
参考にした主な公的・競技団体の資料
以下は2026年10月16日時点に確認した情報です。相談前には最新の受付条件・連絡先をご確認ください。
- スポーツ庁「スポーツにおける暴力・ハラスメント等の根絶に向けた取組」
- スポーツ庁「暴力・ハラスメント等相談窓口一覧」(令和8年3月一部更新)
- 日本体操協会「お問い合わせ窓口のご案内」
- 日本体操協会「会員・関係者向け(コンプライアンス)」
- 日本スポーツ協会「暴力根絶に向けた取り組み・相談窓口」
- 日本スポーツ振興センター「スポーツ指導における暴力行為等に関する第三者相談・調査制度」
- 文部科学省「24時間子供SOSダイヤル」
- 法務省「こどもの人権110番」
- 法務省「人権相談」
- 法務省「令和8年度 こどもの人権相談 強化週間」
- こども家庭庁「児童相談所虐待対応ダイヤル189」
この記事の制度説明は、公的機関・競技団体の公表内容に基づきます。新体操の練習場面への当てはめ方、初期対応例、12項目の確認リストは新体操安全コーチ資格による教育上の提案です。個別の法的助言や被害認定に代わるものではありません。
選手が安心して挑戦できる教室へ。
高い目標に挑むことと、身体や心を大切にすることは、どちらも新体操の指導に必要です。安全な指導を学び、教室のルールと外部の相談先を整えるところから始めましょう。